二項分布と大数の法則のシミュレーション
背景 (Background)
「コイントスを何千回も繰り返すと、表が出る確率は次第に50%に収束する」。誰もが直感的に理解できるこの現象は、統計学において「大数の法則」と呼ばれ、現代のデータサイエンスや機械学習の根幹を成す非常に重要な法則です。また、私たちの身長やテストの点数など、自然界や社会で観察されるデータの多くが「釣鐘型(正規分布)」のグラフを描くのはなぜでしょうか?これは「中心極限定理」という強力な数学的性質によるものです。本プロジェクトでは、抽象的な数式としてのみ語られがちなこれらの法則を、実際にコンピュータ上で大量のサイコロを振るような「乱数シミュレーション」を通じて可視化し、確率論の神秘を直感的に解き明かします。
プロジェクト概要 (Evaluation Context)
二項分布と大数定律(大数の法則)の模擬実験を行う。赤白球の抽出実験によって二項分布を検証し、Excelを用いて大量の乱数を生成する。ヒストグラムの描画を通じて、大数の法則(LLN)と中心極限定理(CLT)を直感的に検証し、その確率的・統計的な性質について深い理解を得ることを目的とする。
序論 (Introduction)
本研究の目的は、二項分布と正規分布の基本概念、ならびにそれらの分布が持つ特徴と差異を理解することである。確率論における重要な二つの法則、すなわち「大数の法則」と「中心極限定理」を、実際の物理的な抽出実験とコンピュータを用いた乱数シミュレーションの双方から検証する。
コア理論と導出 (Core Theory and Derivations)
大数の法則 (Law of Large Numbers)
大数の法則は、独立試行のサンプルサイズが大きければ大きいほど、得られた標本平均は母集団の真の平均(期待値)に近づくという確率論の法則である。試行回数を無限に近づけることで、理論的な確率と経験的な確率が一致することが保証される。
中心極限定理 (Central Limit Theorem)
中心極限定理とは、母集団がどのような分布であっても、標本サイズが十分に大きければ、標本平均の分布は近似的に正規分布に従うようになるという定理である。平均は母集団平均と等しくなる。
一様分布からの正規分布の導出
区間 上の一様分布の平均(期待値)は 、分散は となる。 したがって、一様な区間 から12個の数を選択する場合、期待値と分散は以下のようになる。
さらに とすると、期待値は以下のように計算される。
分散は確率変数から定数を加減しても変わらないため、以下の通りである。
期待値 0、分散 1 をもつこの は、中心極限定理により近似的に標準正規分布 に従う(一様乱数から標準正規乱数を近似生成する古典的手法であり、厳密には Irwin–Hall 分布に基づく近似である)。
偏差値の確率密度関数
偏差値は、データを平均50、標準偏差10の分布に変換した値である。データ から偏差値 への変換は以下のように計算される。
正規分布 の確率密度関数 は以下である。
ここに平均50、標準偏差10を代入すると、偏差値の確率密度関数は次のように導出される。
実装と実験手順 (Implementation)
実験1:二項分布の物理的検証
離散分布を基本として二項分布の特徴を理解するため、以下の手順で実験を行う。
- 赤玉4個、白玉6個の合計10個の玉が入った箱を用意する。
- 1つ取り出して色を確認後、赤なら○、白なら×で記録し、取り出した玉を箱に戻す。これを5回行う。
- この試行を30回繰り返し、試行ごとに取り出された赤玉の回数を記録する。
- 取り出された赤玉の回数の度数表とヒストグラムを作成する。
実験2:大数の法則と中心極限定理のシミュレーション
標本平均の分布について理解するため、以下のシミュレーションを行う。
- Excel等のツールを用いて、区間 の一様乱数を1000個発生させ、ヒストグラムを作成する。
- 変数の数を「2」に変更し、2つの乱数の平均値を用いて1000個のデータを作成し、ヒストグラムを作成する。
- 同様の手順で、変数の数を 8 と 100 に変更し、それぞれの平均値に対するヒストグラムを作成する。
実験3:正規分布のパラメータの検証
正規分布の概要を理解するため、以下の手順で乱数生成を行う。
- 分布を「正規分布」とし、平均と標準偏差を と設定して1000個の乱数を生成し、ヒストグラムを作成する。
- 平均と標準偏差を に変更し、それぞれのヒストグラムを作成する。
- 平均と標準偏差を に変更し、それぞれのヒストグラムを作成する。
実験結果と考察 (Results)
二項分布の検証結果
実験1の物理的抽出結果に基づくヒストグラムは以下の通りである。

本実験は、各試行が独立であり(影響なし)、赤玉と白玉の出る確率が一定()であるという条件を満たしている。試行の独立性と確率の確定性が担保されているため、この実験結果は理論的な二項分布に従っていると結論付けられる。
中心極限定理と大数の法則の可視化
実験2において、変数の数を変えた場合の乱数分布ヒストグラムは以下の通りである。

変数の量が少ない場合と比較して、8変数や100変数の場合は多くのデータが中心値である0.5に集中する。大数の法則が示す通り、標本平均は変数の数が増えれば増えるほど、期待値()に近づくことが確認できた。
また、変数の数が増えるにつれて、ヒストグラムの形状は一様分布から釣り鐘型の理論的な正規分布へと変化していく。特に変数の数を100に設定した場合、ヒストグラムは平均0.5、左右対称の正規分布に極めて近い形状となる。これは中心極限定理の性質を明確に実証している。
正規分布パラメータの比較
実験3において、平均値と標準偏差を変更した場合のヒストグラムは以下の通りである。

標準偏差を固定()し、平均値を変更した場合、分布の形状(広がり)は全く同じであるが、図形の中心位置がそれぞれ へと平行移動する。 一方、平均を固定()し、標準偏差を変更した場合、図形の中心位置は変わらないが、標準偏差が大きくなるにつれて、分布の形状がより平坦で幅広くなることが確認できる。 これにより、正規分布における期待値は確率分布の中心位置を決定し、標準偏差は確率分布の広がり(ばらつき)を決定することが明確に示された。